塩谷喜雄

ドイツの首相が、ヒトラーやナチス幹部の霊を慰め、英霊として讃えたらどうなるでしょう。ドイツ国内の主要メディアの論調が「方法は大きく間違っていたが、当時の国際情勢からして、ナチスの行動はやむを得ない愛国的な要素もあった」などと言ったら、どうなるでしょう。 ドイツが戦後68年培ってきた国際社会における信頼と信用は、いっぺんに雲散霧消するに違いありません。ドイツはナチスの戦争犯罪とそれに従ったドイツ社会の愚かさを疑うような言説を徹底的に封印・排除し、EUを築き、欧州の指導的役割を担っています。 国際社会は68年前の大戦をまだ忘れていません。それどころか、国際社会の枠組みは未だに「戦後そのもの」だと言っても過言ではありません。「United Nations」を国連などといい加減な訳で誤魔化しているのは日本だけです。正しくは「連合国」であり、そこには今でも日本とドイツを敵国とする条項が存在しているのです。 中国が事あるごとに持ち出す「戦後の世界平和秩序」とは、まさしくこの連合国の支配を指すものです。具体的には、P5と呼ばれる米英仏ロ中、戦勝国にして核保有国であり、安全保障理事会の不動の常任理事国であるこの5カ国による支配秩序のことです。 終戦直後の日本に生まれ、日本で育ち、日本の文化と食べ物と酒と日本人を愛する私は、日本国はそろそろ「連合国の敵」「アジア侵略の責任」というくびきから解き放たれ、「平和を愛する豊かな先進国」というポジションを得ていい、と思い願っています。しかし、それは歳月の経過による記憶の風化だけでは、実現されそうもありません。日本が良質な自然と文化、豊かで穏やかな社会を築き、世界の平和と安定に貢献し続けていることを、国際社会にずっと伝え続けるのが、日本の政府、とりわけ首相の大きな責務のはずです。